AGA(男性型脱毛症)治療では、主に「プロペシア」や「ミノキシジル」といった治療薬が使われています。最近では「ザガーロ」いう新しい治療薬も発売され、その効果の高さが話題になっています。ここでは、その話題の新薬「ザガーロ」について、治療薬としての基本情報や効能、臨床データの検証、注意点などをまとめてお伝えいたします。
ザガーロの説明と効能
2015年9月28日に厚生労働省より認可され、2016年6月13日より、製薬会社GSK(グラクソ・スミスクライン株式会社)より発売されているまだ新しいお薬です。薬の基本情報として以下の項目をご確認ください。
主成分
主成分として「デュタステリド」が使用さています。「デュタステリド」は、元々「前立腺肥大症」を抑えるものとして欧米で承認が進み、その後AGA(男性型脱毛症)への効能が認められたことから、AGA治療薬としての開発が進み、2015年に「ザガーロ」で国内認可されたという経緯があります。
効能
額や頭頂部の毛根付近に存在する「5αリダクターゼ」という還元酵素に作用し、薄毛や抜け毛の要因となっているDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑えることが期待されるものです。男性のAGA(男性型脱毛症)のみを適用対象としていますので、未成年の方や女性は服用できません。
DHTって?薄毛のメカニズムチェック
薄毛が進む背景には「DHT(ジヒドロテストステロン)」という悪玉化した男性ホルモンの存在があることが知られています。このDHTは、元々善玉男性ホルモン「テストステロン」に「Ⅱ型5αリダクターゼ」という還元酵素が作用して生成されるものです。
このことから、還元酵素「Ⅱ型5αリダクターゼ」が男性ホルモン「テストステロン」と結びつくことを抑制できれば、必然的にDHTの濃度が下がり、抜け毛の量が減るという流れを作れます。
「ザガーロ」は、このような結びつき(「5αリダクターゼ」⇔「テストステロン」の結びつき)を抑制する効能が認められることから、DHTを減らしAGA(男性型脱毛症)に対抗できる治療薬として国内認可されたということになります。
「臨床試験」から「ザガーロの効果」を考えてみよう!
「ザガーロ」を発売している製薬会社GSKが、医療関係者向けに公開している「臨床試験データ」があります。ここでは、この資料を基にザガーロの効果面について探ってみましょう。
臨床試験の概要
20歳から50歳のAGA(男性型脱毛症)患者917人を、「偽薬プラセボ(何の成分も含んでいないもの)」と、「フィナステリド1mg」、「ザガーロ0.02mg」、「ザガーロ0.1mg」、「ザガーロ0.5mg」、の5グループに分けます。それぞれのグループの患者がそれぞれの薬を毎日1錠服用し、その成果を主に頭頂部分の毛髪の変化で検証するというものです。
チェックする頭皮領域、及び対象
「頭頂部の直径2.54cm円内」の中にある「太さ30μm以上の非軟毛」の数です(μm=マイクロメートルは0.001mmです)。簡単に言い換えると、「つむじ付近の短くて弱々しい毛(=軟毛)以外の毛の本数」を数えるというものです。
効果1:毛の本数が増える!
[1]承認時評価資料:第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験(第Ⅲ相試験:非劣性試験)(海外、ARI114263試験)
[2]Gubelin HW, et al.: J Am Acad Dermatol, 70, 489-498, 2014より改変
上記のものが公表されている結果データです。「ザガーロ0.02mgのグループ」については、製品化されない成分量ということもあり、データがカットされています。よって、実質4つのグループの評価結果を比較して見ることができます。
左から、「偽薬プラセボ」「フィナステリド1mg」「ザガーロ0.1mg」「ザガーロ0.5mg」を投与したグループです。ご覧のように、元々のつむじ付近の毛の本数(概ね750本前後と下の注釈にあります)から、それぞれ「4.9本減」、「56.5本増」、「63本増」、「89.6本増」という結果が出ています。
「弱々しい毛(=軟毛)でないとされる毛」がそれぞれの「つむじ付近」にこのように増えたということになります。24週なので約7ヶ月後の結果ということになりますが、この間、毎日それぞれ対象の薬を1日1回服用しています。(「偽薬プラセボグループ」は何の効果もない薬を服用しつづけた結果、AGA患者ということから、若干髪の本数が減っているのが興味深いです)。
効果2:毛が太くなる!
また、この臨床試験では「毛の太さの検証」も行われています。それが以下の表になります。
[1]承認時評価資料:第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験(第Ⅲ相試験:非劣性試験)(海外、ARI114263試験)
[2]Gubelin HW, et al.: J Am Acad Dermatol, 70, 489-498, 2014より改変
同じく「頭頂部の直径2.54cmのエリア」で、「太さ30μm以上の毛」を測定したものです(μm=マイクロメートルは0.001mmです)。単位が使い慣れないレベルのものであるため、どの程度太くなっているのかが掴みづらいですが、結果として「偽薬プラセボ群」と比較し毛髪の太さも太くなっていることが医学的な成果として報告されています。
ザガーロの「副作用」とザガーロを「服用できない人」
強い薬であればあるほど、一般的には「副作用」という影響が出てきます。ここでは副作用についても確認しておきましょう。
副作用は一定数報告されている
<引用:ZAGL00144-D1701D>
先の項でも引用させていたただいた臨床試験結果での「副作用」を評価しているデータになります。一番上の「評価症例数」というのは、その群(グループ)に属しているメンバー全体の数になります。
例えば、「ザガーロ0.1mgを服用し続けたグループ188人」の中には、勃起不全にいったケースが6名(=3%)報告されているということになります。ここでは、発現頻度が2%以上になったものが記載されています。
「男性機能」に関する副作用
「生殖系のもの」として、勃起不全、射精不能、射精障害など、男性機能に関わるものが報告されています。元々が前立腺肥大症に効果がある性質上、このような方面に少なからず影響を及ぼすものであることは否めないようです。
「精神障害」として、「リビドー減退」とありますが、これはざっくり言うと「性的欲求」に関するものです。よって、大枠では男性機能という部分での影響ということが言えます。夫婦で子供を作る予定がある場合などは、特に注意しておかなければならない項目です。
胃腸障害、肝機能面への影響
その他、胃腸障害、肝機能面などへの影響は配慮されるべき注意事項になっています。特に「肝機能への影響」は強く懸念されていて、『使用上の注意書』にも以下のように記載されています。
重大な副作用
肝機能障害、黄疸(頻度不明注1)):AST(GOT)、ALT(GPT)、ビリルビンの上昇等を伴う肝機能障害や黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。
<出典:https://www.healthgsk.jp/content/dam/global/hcpportal/ja_JP/products-info/zagallo/zagallo.pdf>
女性や子供は服用できません!!
臨床試験が20歳以上のAGA(男性型脱毛症)患者のみを対象としていたことからも、「20歳未満の未成年」に対しては、安全性と有効性は確立されていません。よって、未成年に処方することは禁じられています。また、女性が服用することも固く禁止されています。
「ザガーロ」の服用により、血中のDHTが低下し、男子胎児の外生殖器の発達を阻害する可能性があることが、ラットなどの実験から報告されています。よって、妊婦は特に注意が必要です。カプセルの中の成分に触れるだけでも、皮膚を通ってその成分を取り込んでしまう可能性があることから、女性は全般的に薬自体に触らないような配慮が必要になります。
家族にも伝えておく必要があります!
成人男性が医師の処方に基づいて服用する場合においても、誤って触れてしまわないよう、家族にはそのリスクを正確に伝えておくことが必要となります。
このような注意事項を正しく理解すると、安易な気持ちで個人輸入業者などを利用し、「ザガーロ」を購入してしまうことがいかに危険であるか、お分かりいただけると思います。専門医としっかりと相談をし、その効果と副作用面を正しく理解した上でお使いになるよう強くお願いいたします。
「プロペシア」と「ザガーロ」の違いについて
効能面では「ザガーロ」の方により大きな期待が持てる!?
「プロペシア」と「ザガーロ」の身体への働きかけの違いは、主に還元酵素「Ⅱ型5αリダクターゼ」のみに作用するか、「Ⅰ型5αリダクターゼ」と「Ⅱ型5αリダクターゼ」の両方に作用するかの違いと考えることができます。
- 「プロペシア」…「Ⅱ型5αリダクターゼ」に作用
- 「ザガーロ」…「Ⅰ型5αリダクターゼ」と「Ⅱ型5αリダクターゼ」の両方に作用
還元酵素「Ⅱ型5αリダクターゼ」と男性ホルモン「テストステロン」の結びつきによって、「DHT(ジヒドロテストステロン)」という脱毛作用をもたらす悪玉男性ホルモンが生成されることは既に医学的にわかっています。ですが、還元酵素「Ⅰ型5αリダクターゼ」が薄毛にどのように関与するのかは、今のところ医学的にも不透明です。
重大な副作用
「テストステロン」+「Ⅱ型5αリダクターゼ」→DHT(ジヒドロテストステロン)
→よって、「Ⅱ型5αリダクターゼ」に作用することは大いに意味がある!
→では、「Ⅰ型5αリダクターゼ」に作用することは、果たして何の意味があるの???
このあたりの疑問点について、「ザガーロ」の製薬会社GSKでは、以下のように解説しています。
5α還元酵素1型・2型と男性型脱毛症の関係を教えてください。
男性型脱毛症(AGA)の病因には、テストステロンの活性体であるジヒドロテストステロン(DHT)と遺伝などが関与しています。DHTは、テストステロンが5α還元酵素によって変換されて生成されるアンドロゲンです。遺伝的な5α還元酵素2型欠損症にはAGAがみられないこと、また5α還元酵素2型阻害薬であるフィナステリドの臨床効果から、5α還元酵素2型とAGAの関与は明確に示されています。また、AGA男性の脱毛部位の頭皮の毛包には5α還元酵素2型のみでなく1型も発現しており、5α還元酵素1型とAGAの関与が示唆されています。
<引用:https://www.healthgsk.jp/products-info/zagallo/qa.html>
つまり、わかりやすく言うと…
「Ⅱ型5αリダクターゼ」の欠損症患者にはAGAが認められない臨床効果もある
→よって、「Ⅱ型5αリダクターゼ」が生成されなければ、AGAにはならないと医学的には判明済み
→「Ⅰ型5αリダクターゼ」も頭皮の毛包付近に現れる還元酵素だということはわかっている
→よって、AGAに関与している可能性がある?
→だから、「Ⅰ型5αリダクターゼ」にも影響を及ぼす「ザガーロ」が効果面で期待が持てる
このような解説がなされ、果たして「ザガーロ」が「Ⅰ型5αリダクターゼ」にも作用することが良いことなのかどうなのか、うまくぼかされているようにも感じます。ただし、臨床試験のデータを見ると、やはり「プロペシア」より少ない量で「プロペシア」以上の効果が出ていることが報告されているということは事実と言えます。
ザガーロだけに頼るのはNG
「ザガーロ」はまだまだ新しいお薬
「ザガーロ」はまだまだ新しい治療薬ということもあり、その効果面だけでなく、その副作用面でも多くのデータが集まっているわけではありません。もちろん安全性が基準値を上回ることで国内認可されているわけですが、「Ⅰ型」の「5αリダクターゼ」にも作用する面など、まだまだ不確かな部分があることも事実です。
「プロペシア」はデータが豊富な治療薬
比較して「プロペシア」は、2005年12月に認可されて以来多くの国内クリニックで処方されており、薄毛予防効果や副作用面でも一定の成果データが集まっています。そのため、より「データが豊富な」という場合においては、「プロペシア」という選択肢も確かなものとしてご案内できます。
発毛効果であれば「ミノキシジル」
また、「プロペシア」も「ザガーロ」も、効能的には「抜け毛を抑える」方向でのAGA治療薬になります。「毛が太くなった」という部分がクローズアップされ、一部「発毛効果もある」と過大に評価されて紹介される場合もありますが、本質的な薬の機能はあくまでも「抜け毛の防止」です。「発毛効果を狙ったもの」としては「ミノキシジル」という薬が存在しています。
こちらは「血管拡張剤」という方向から、「血行を促進し発毛させる効果がある」ことが評価されたものになります。ただし、本質が高血圧の患者のための薬になるため、AGA治療薬としては認可されていない実情もあります。よって、このような複数のものを総合的に視野に入れながら、専門医と深く話し合ったうえで、どれをどの程度服用するのかお決めになっていくのがベストな治療法だと言えます。
今ある髪の量を減らしたくないのであれば、今すぐご相談を!
薄毛や抜け毛の症状に働きかける薬は、この記事でお伝えしたようなものが主なものとなります。これらはそれぞれに「効果がある」ことがわかっていますが、あくまでも「継続的に服用し続けて」という条件があります。逆に言えば、継続的に服用いただければ、今の髪の量よりも更に薄くなっていくという事態は回避しやすくなると言えます。
AGA(男性型脱毛症)は、放置すれば症状が進行していくものになりますので、お悩みの場合は早めに当クリニックなどの専門医を受診してください。当クリニックに関しましては、これまで様々な患者様のお悩みに寄り添い、多くの実績を築いてまいりました。個々の生活環境に合わせたアドバイスも含めて、総合的に患者様をサポートさせていただいております。どうぞお気軽にご相談にいらしてください。